館長ごあいさつ

コロナ禍における新渡戸記念館の活動
~全国の心ある皆さまとともに~

新渡戸記念館館長 新渡戸常憲
(音楽学博士 音楽評論家)

新年明けましておめでとうございます。当館の廃館取り壊し問題につきましては、平成27年(2015年)6月に十和田市を提訴してから今年で足掛け6年が経過しておりますが、今に至るまで、全国の沢山の皆さまに関心を持っていただき、また、この大変なコロナ禍においてもなお、変わらず記念館の存続のためにご寄付をお送りいただくなど、さまざまな形で当館にご支援、ご協力の暖かい手を差し伸べて下さることに、衷心よりお礼申し上げます。ご存じの通り一昨年12月、最高裁にて私どもの言い分は通らず、法的には記念館の廃館が不合理ではないとされ、上告は受理されませんでした。その後、和解調停を提起したものの、先方は頑なに応じず、調停も不調のまますぐに打ち切られてしまい、逆に十和田市より、記念館明渡しの訴訟を昨年9月に起こされました。現在、記念館を何とか守るべくこの裁判に対応しつつ、皆さまからのお力添えにより、ボランティア体制で記念館の活動を継続しております。

さて、新渡戸記念館は、大正14年(1925年)に新渡戸稲造の意志により、その前身となる「私設新渡戸文庫」として稲造の祖父・新渡戸傳の眠る太素塚の敷地内に設置されたのがはじまりです。江戸時代末期、「不毛の地」とされた三本木原(十和田市周辺地域)を米どころへ変えようと、新渡戸傳(稲造の祖父)、十次郎(稲造の父)、七郎(稲造の兄)三代を中心とする地域の先人たちが人生をかけて行った開拓の苦難の歴史は、後に世界でも名高い国際人に成長した新渡戸稲造少年にも大きな影響を与えました。三本木原開拓は、水を引き、まちをつくり、京に学び文化や産業を興し、神社仏閣を設置する、という総合開拓でしたが、新渡戸十次郎が急逝すると、文化や教育面の育成は滞ってしまいました。そこで、江戸から明治への時代の転換期に東洋、西洋の文化に触れ、国内外で教育や外交にも尽力した新渡戸稲造は、三本木地域の住民の文化や教養を高めて欲しいと、自らの蔵書7000冊を贈ってここに新渡戸文庫を開き、設立理念として「博覧啓蒙」の書を揮毫しました。こうして三本木原開拓の資料と新渡戸家伝来の武具甲冑、新渡戸稲造の蔵書などおよそ8000点の資料を保存、展示し地域に親しまれ歩んできた私設新渡戸文庫は、昭和40年(1965年)に、十和田市と共に、収蔵する貴重な文化財を永久に保存していくことを申し合わせ、「十和田市立新渡戸記念館」となりました。

奇しくも廃館取り壊し問題が発生した平成27年(2015年)には、私設として40年、市立として50年、合わせて90周年の節目の年を迎えておりました。この90年の歴史は、この館を大切にしてくださった皆さまのお心あってのものと、改めて感謝申し上げる次第です。これまで地域に愛され親しまれ、ふるさとに根差しつつ世界に開かれた窓となってきた新渡戸記念館は、世界に向け、未来に向けメッセージを発信するという使命を以て存在しています。その使命を変わらず果たすために、記念館の活動を絶やすことの無いよう努力を続けていきたいと、思いを新たにしております。新渡戸家に伝わる「温故知新」の精神で、伝統を大切にする一方、私なりのさまざまな創造も館の運営に反映し、問題を打開できればと考えています。当館の歴史や収蔵資料は、地域にとっても日本にとっても貴重なものであることは多くの方がご存じの通りです。十和田市三本木原開拓の歴史と幾多の困難に立ち向かい、郷土の発展に尽くした先人の開拓精神、そしてその精神を受け継ぎ世界平和の地平を目指した新渡戸稲造博士の崇高な魂を、皆様にも感じていただきたいと思います。問題になっている新渡戸記念館の建物も、生田勉東京大学名誉教授による意匠設計と、日本建築学会元会長でもあられた佐藤武夫早稲田大学教授の構造設計による日本に現存する唯一のコラボレーションであり、記念館史料同様に価値あるものです。そうした記念館が伝える歴史文化を育んだ国立公園十和田湖から奥入瀬渓流、秀美な八甲田の山容、その見事な景観の四季折々の佇まいも、見事な美しさです。ぜひ一度お立ち寄りいただければなによりです。

最後になりますが、このような大変な状況の中で、既存の友人たちや記念館ファン、『武士道』ファンも含め新たな友人たちが、市内はもとより全国から我々を支持してくださることは、記念館や、当館を守るために活動する市民有志一人一人にとって、何にも代えがたい財産となっております。そのことが私にはとても嬉しく、私自身にとっての財産でもあり、これがご先祖たちの望むことなのかも知れないと考えております。一日も早い通常開館(運営)を目指し、全力を尽くして参りますので、今後とも皆さまのご支援、ご指導、ご協力のほど、何卒よろしくお願い申し上げ私のあいさつとさせていただきます。コロナ禍の中、全国どこへ居ても不安が募るものですが、皆さまにおかれましては、2021年が素晴らしい年になりますよう心より祈念申し上げます。

令和3年(2021年)1月1日

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